すずき》釣りに耽《ふけ》ったのである。
 奥日光の湯川では、猛然と鈎に飛びつく鱒《ます》に深い興趣を求めたのであるが、あの戦場ヶ原を取りまく大きな山々の景観には、幾度か心を惹かれた。初夏、浅緑のおおう渓のなぎさに佇《たたず》めば、前白根に続いた近い斜面の叢林《そうりん》が美しい。
 金精峠を越して菅沼へも、丸沼へも行った。そして、大尻川を下って鎌田へ出て、さらに戸倉の集落を過ぎて尾瀬沼と尾瀬ヶ原の方へも行った。
 茨城県にも釣り場は多い。霞ヶ浦を中心とした水郷地方は、釣りを楽しむ者で殆ど知らぬは少ないであろう。大利根川の鱸と鯉と鮒とはや[#「はや」に傍点]は有名だ。水戸を東へ三里、涸沼《ひぬま》と涸沼川はほんとうに魚が多い。そして、大洗海岸も、夏場は磯魚がよく釣れる。湊の河口も捨てがたいのである。
 那珂川の中流は、鮎が多いので幾年も友釣りを堪能した。下流の鱸とはや[#「はや」に傍点]は素敵だ。殊にここの鱸《すずき》は、亡き父と二年続けて試みて想い出が深いのである。久慈川には、関東一と言われるほど姿、味も立派な鮎が棲んでいる。太子町の上流に掛かった簗《やな》小屋に幾日か過ごして我が釣っ
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