やわらかである。那珂川や、魚野川、鬼怒川などに沢山いて、里の子供が鰍押しで春から夏にかけて漁《と》るが、水温が高いためかどうも賞味できないのである。
ところが、片品川の奥や、神流《かんな》川のように遠い雪の山から流れてくる川で漁れたものは格別である。殊に利根川の薄根口から上流、真庭、月夜野、上牧にかけての鰍は肉に脂が乗った具合がとろりとして、舌の先で溶けてしまうほどである。
鰍は二月から三月へかけて、上流に近い玉石底の矢倉《やぐら》石の裏に産卵するのであるが、水温が低くなって十二月半ばから、翌年の雪解水の終わろうとする五月下旬までが一番おいしいのである。柔らかくて頭も骨もないのである。水温の高い川の鰍は、そうはいかない。
うぐい[#「うぐい」に傍点]やはや[#「はや」に傍点]もそうである。早春、水の冷たい、まだ瀬付き前の巣離れといった頃釣ったならば、骨がやわらかである。ところが水温が次第に高くなってくるから、河口に近い下流で釣ったはやは義理にも食べられない場合がある。
はやと山女魚と雑居している川はまれではない。東京付近では、多摩川の支流秋川も、甲州南|都留《つる》の笹子川もそ
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