の三宅孤軒君も、一昨年越後からの帰りに後閑で、キネマ界の利け者野中康弘君の友釣りでとった鮎をご馳走になって、その味と香気と肉の舌離れのあざやかさに驚いたのであった。鮎は、長良川と多摩川に限るように思っていたのに――鮎は、水温の高い川に育つと骨が硬くなるのである。先年、ある学者が、鮎の味は水温の高い川で漁《と》れたものに限ると何かの本に書いたことがあるが、私はそれを読んで学者は学者らしいことを言うものだと、思ったのである。
 冷たい水を好んで棲む魚は、どれも骨が柔らかである。山女魚《やまめ》も、岩魚《いわな》も、鱒《ます》の子も。――骨を除いて食べるようでは、こうした魚の真の味を知る人とはいえないのである。最近知ったことであるが、榛名湖で釣れる公魚《わかさぎ》は本場の霞ヶ浦でとれるものよりも、骨が柔らかである。これも榛名湖の水温が低いためであろう。
 こう数えてくると、鮭科に属する魚のみが、水温と食味に関係があるようであるが、そうではない。
 鰍《かじか》とはや[#「はや」に傍点]も水温の高低によって味と骨の硬軟に密接な関係を持っている。殊に鰍は水温の低い川に棲むものほど脂肪が濃く、骨が
前へ 次へ
全13ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング