、もっとも水温が低いのである。それでさえも、小鮎は上流へ、上流へと遡っていく。
 そして、遡り詰めたところは、水上温泉の下流、小松の発電所の付近である。でなければ支流の片品川の吹割の滝の下流、岩室付近である。近年、上毛電力の堰堤が糸の瀬にできて遡れなくはなったが――。この付近の水温は、七月中旬から、八月中旬にかけて真夏の日中でも二十一、二度を超えることができない。また夕方は早く水から上がらなければ、慄えてしまう。それでも鮎は大きく育つ。
 この辺は、真夏|山女魚《やまめ》も一緒に棲んでいるのである。
 そんな冷たい水で育った鮎の味はというと、それは上等である。七、八十匁から、百匁近い大きな鮎であるにも拘わらず、肉はキッとしまって香気が高い。殊に嬉しいことは、水が冷たくなればなるほど、鮎の骨は柔らかになる。腹に片子でも持とうという成熟しきった八月末の鮎でも骨も頭もない。モリモリと頭から食える。
 だから、利根川の鮎は赤谷川の合流点付近から上流でとれたものを、一番上等とされている。鮎の産地のことなどには、あまり関心を持たない――ほんとうは、知っているべき筈なのだが――大日本料理人組合連合会
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