側へ深い峡谷を刻んでいっているのである。
谷が深ければ、渓を掩う樹木は密生する。樹木が多ければ、地肌に当たる陽の力は自然に弱くなって雪は夏遅くまで残っている。それが因となり果となって、一方はますます山が深くなっていくのに反して、裏は山が浅くなっていく傾向を持っている。
だから、少し注意深い人であるならば気付くであろうが、概して裏日本側の水源は渓をなしているが、表日本側の水源は流れをなしているのである。
結論というのも変であるが、陽当たりのいい地方の川と、悪い地方の川。ここに水源の高低が分かれるのであろう。
それから、前段に耕地が山奥深く開けているということを言ったが、その川の流域に耕地が多ければ多いほどその川の水温は高くなるのである。昔から裏日本には水田が広く拓けていた。ところが表日本は冬陽当たりがよく暖かいにも拘わらず水田が少なかったのである。
その意味から、富士川は表日本にあるのであるが、甲府盆地という広い盆地を持っているために、水温が高かった。釜無川は韮崎付近までは冷たいまま流れてくるが、盆地へ出ると急に水が温《ぬる》んでしまう。笛吹川も、雁坂の峠の東を出て日下部付近ま
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