これは美濃の山、飛騨の山々へ行っても同じである。
どうして、裏側の雪が早く解けるかというのは、むずかしい問題であろう。私は、漫然と気圧の関係ではないかと考えている。同じ標高の山に積もった雪ならば、裏日本に面した土地が早く解ける。これは冬とは反対に、表山の方が初夏の頃には、東南の冷たい風を受けやすく、裏川は風陰になって気温が高いからではなかろうか。また初夏の陽《ひ》は、北へ回る関係上、裏側にはげしく当たるとも考えられる。そんなわけで、裏日本側の雪は、表側のように夏の土用が過ぎるまで、いつまでもだらだらとは残ってはいない。初夏の頃に一度解けて流れ出してしまうのを例としているのである。地質の関係もあろう。概して裏日本は山嶺近くから耕地が開け、殖林が疎らである。従って陽当たりがいい、雪が早く解けるということになる。
ところが、表山は概して雪が深いのである。これは場所によって岩質の関係もあろうが、初夏から真夏へかけて東南の雨風を受け、頽雪《たいせつ》の状態を頻繁に起こすからである。頽雪が岩を削る力は恐ろしいもので、岩の凹みを削って谷となし、谷を掘って峡となし、永い年月働く自然の斧は、表日本
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