では冷たいが、石和へくると段々湯のようである。そして富士川は、鰍沢を出て再び峡谷に入るのであるが、流れは温かのままである。
 那珂川もそうである。栃木県の塩谷、那須、芳賀の三郡に拓けた耕地から、広く浅く陽を受けた温かい水が絶えず注いでいては、他の川のように、いつまでも冷たい水温を保っていられないのは当然である。長倉の峡を下《くだ》って茨城県へ入れば、一層水温が高くなるといっていい。
 この二川は、表日本の異例であろうか。
 黒部川は、裏日本の特例である。断層によってできた飛騨山脈の割れ目を、北へ流れる黒部川は雪が深いうえに、陽当たりの悪い川である。屈曲が多く谷が深い。そして水面を掩う樹葉は敷き詰めたようである。流域の耕地は、まことに少ないのである。水温の低い所以《ゆえん》である。
 興津川は、鮎の棲む川として、太平洋へ注ぐもののうち最も流程の短い一つである。この川の流域も耕地が少ないのである。それに小さい川にも拘わらず、大河に似た相を持っていて崖が高く屈曲が多い。あのくらいの長さの川では、水温が高い上に、水質が悪く到底鮎など棲み得られるものではないが、この川は水温が比較的低いので、立派
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