薮から切ってきた竹では満足しなくなった。糸も、縫糸では面白くない、と私に言う。安い竿を買ってやり、糸もテグスを与えるようになった。
 ある秋のはじめ、村の地先の利根川へ流れ込む備前堀という小川の流れ口へ、小伜を連れて行ったことがあった。備前堀の流れ口へは、秋がくると毎年よく肥った大きなうぐい[#「うぐい」に傍点]が数多く遡ってくるのである。私も子供の時、たびたび父に伴われてここで釣った。で、このうぐい[#「うぐい」に傍点]は桑の葉の裏に這っている小さな青虫が大好物である。これを、鈎の先につけて釣ると他のどの餌をつけたのより成績がいい。
 その朝も、小伜にたくさんの桑の虫を捕らせた。竿と釣り道具も、私と同じようにこしらえてやった。竿は二間のやわらかいもの。道糸には水鳥の白羽を目印につけた脈釣り式である。道糸は竿一杯、鈎素《はりす》は四寸五分、板鉛の軽い錘《おもり》をつけてやった。
 釣り場へ行って、魚の餌に当たる振舞《ふるまい》を、目印につけた鳥の羽の動くようすで眼にきくことを、鈎合わせの呼吸などを説いて聞かせた。そして私と並んで、糸を水の中層に流させたのである。
 子供は勘《かん》がい
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