い。それに、人の教えをよく守る。十二、三回、糸を波に送り流し、餌を取られるうちに、うぐいが餌に絡まる振舞を呑み込んだらしい。次第に手馴れていくほどに、三度に一度は鈎合わせがきくようになった。もう二、三年も前から、鮒も鯰も釣ったことがあるのであるから、鈎に魚が掛かってもあわてはしない。緩やかに道糸に送りをくれておいて、水から抜き上げる手際《てぎわ》は、我が子ながら天《あ》っ晴れと感じたのであった。
やはり我が子だ、と思ったのである。
その小伜が、東京の学校へ入ってからも、私は鴨居、野島などへ鯛釣りのお供をさせた。相模川と多摩川の鮒釣りへも、小田急沿岸の野川のはや釣りへも、水郷地方の鮒釣りへも連れて行ってやった。小伜が、都塵を離れ、広濶たる水上に清い大気を吸って、のびのびと自然に溶け込んでいる姿を見た。
釣りは、人をすこやかに育てると思う。小伜に、いつまでも明るい人生を送らせたい。
底本:「垢石釣り随筆」つり人ノベルズ、つり人社
1992(平成4)年9月10日第1刷発行
底本の親本:「釣随筆」市民文庫、河出書房
1951(昭和26)年8月発行
初出:「釣りの本」改造
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