支那の狸汁
佐藤垢石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)脅《おびや》かす
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晋の時代である。燕の恵王の陵の近所に千年をへた古狸が棲んでいた。千年も寿命を保ったのであるから、神通力の奥義に達し、変化の術はなんでも心得ている。
大入道や一つ目小僧などに化けて、村の百姓を脅《おびや》かすのは、狸界における末輩の芸当だ。そんなのは、とうの昔に卒業している。つまり、自分は狸界の上層部にあって、指導者の最高峰であり、実力の保持者だ。
だから自分は、学者と経書詩文を論じ、その優劣を争って、人間に一泡吹かしてみなければ興味が薄い。
と途方もない野望を抱いたのである。そして、美青年に化けて、立派な馬に乗り、恵王の陵の門前から、あたりを払って出て行った。
これを、門前のご神木が見た。そこでご神木は、彼の姿を呼び止めて、
おい君、大分おめかしして、一体どこへ出かけて行くんだい。
と、声をかけた。
なんだ神木君か、ほかでもないがね、今日は、これから張華のところへ、論談の用件があって行くのだよ。馬上から狸は、反り身になって答えた。
おい貴公、それはほんとかい
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