自若として、やはり人間だ。
 そして哄笑しながら、張華先生足下は、国家の棟梁《とうりょう》じゃないか。食を吐きて土を入れ、賢者を進用し、不肖者を黜退《ちゅったい》すべき、地位にあるのであろう。
 なな、なんと。
 しかるに犬などをけしかけるとはなにごと。足下が、どんな手を用いてじたばたするとも、やわか小生を苦しめることはできまい。ゆったりと構えて、青年は壮語するのである。
 しかし、張華は少しも騒がない。最初は、しくじったかな、と思ったけれど、どうも態度が腑に落ちぬ。昔から、百年の精は猛犬をもってその正体を看《み》るべし、千年の精は千年の神木を焼いて、その火をもって照すべし、と言い伝えられてある。
 よろし、燕の恵王の陵の門の前の神木は、千年あまりの齢をへている。これを伐って、その火で照らしみようと思い当たった。そこで密かに使いを陵へ走らせたのである。
 使者が門前へ着くと、そこに青い衣を着た一人の少年が立っていて、その用向きを問うたのである。使者は、事の次第を少年に語って聞かせた。すると、少年は潜然《せんぜん》と涙を流し、
 老狸無知にして、わが言葉を信せず、ついに禍いわれに及ぶ。遁
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