訪れる、というのであるそうだが、いま見てきた妙義から角落の奇峭を飾る錦繍の色は、燃え立つほどに明るかった。横川宿あたりの桑園の葉も、緑に艶々しい。
さくらもみじは、熊の平の駅へはいって漸く散りそめていた。霧積川の流れは岸に砕けて、さすがに晩秋らしく冷えびえと白い泡を立てていたけれど、崖から這い下がる葛の蔓が、いまもなお青かったところを見れば、淵の山女魚《やまめ》の肌に浮く紫もまだ鮮やかに冴えていることであろう。
ところが、碓氷の分水嶺を一足すぎて、この浅間の麓へ眼をやると、なんと寂しい、すべての草木の凋《しぼ》れた姿であろうか。穂に出た芒は、枯れて西風に靡いている。路ゆく人の襟巻は、首に深い。落葉松はもう枯林となって、遠く野の果てに冬の彩を続けている。
空は蒼《あお》く、真昼の陽《ひ》は輝いている。上州では高い空に白い浮雲をみたのに、信州へはいっては一片の雲もみない。その明るい陽に照らされて、浅間山の中腹から、前掛山の頂かけて茜《あかね》さすのは秋草の霜にうたれた色であるかも知れないと思う。それに連なって裾野の方へ、緑に広く布《し》いてみえるのは、黒松の林ではないであろうか。
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