蛇肉の一塊を噛み取って林を縫って南の方へ飛び走った。すると斜酣は、蜂が舞い立った途端に懐中時計を出して時計の針と蛇の肉を無言のままで見くらべているのだ。
 間もなく、蜂は帰って来た。すると斜酣は、二分――巣は近いと叫んだのである。ついで私らを自分の前へ整列させ、学校の先生のような表情でいうに、蜂は巣が近ければ三十秒、一分間位で餌のところへ飛び帰ってくる。少し遠くなると二分、三分、五分、十分もかかる奴は遠いところに巣を持っているので問題にならない。そこで、こうして時計で巣の距離を測定するのだが、五分以上かかる奴だったら、別の親蜂を捜す方がいい。
 なるほど、ひどく科学的だね。
 そこで斜酣は、ポケットから真綿を引っ張り出した。その真綿を少し抓《つま》んで引き抜き、一方を細く撚り、一方を小指の先ほどの大きさに、フワフワと膨《ふく》らませた。そして、蛇の肉を稗粒ほどに小さく爪の先で抓みとって、真綿の細く撚った方でそれを縛った。その縛った肉を人差し指に載せ、飛び帰ってきた蜂の前へ出すと、蜂は蛇の肉を噛み切る労力を惜しむものと見えて指の上の小粒の蛇へ食いついた。
 食いついて、しばらく指の上に徘
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