た。大男の論愚は直ぐ上衣を脱いで巣をこれに包み、大根畑の方へ走り出した。続いて斜酣が上着、シャツ、ズボン、股引を抱えて真っ裸で、畔道を駈けはじめたのである。
 びっくりしたのは、近くの畑に仕事をしているお百姓さんたちである。さきほどから大の男が四、五人、しかもそのうちには白に髭をはやしたのもいる。それが、どれもこれも天の一角を睨《にら》め、何か気狂いのような叫びをあげながら畑の中を走っている。そして、最後には芒原のなかで、叫喚の声をあげていたと見るうち、上着を脱いで駈け出したの、猿股《さるまた》一つで飛び出したの、それに続いて異様の風体のものが、枯芒のなかからよろめき出した。
 不思議、奇っ怪に思うのがほんとうなのである。たちまち十人あまりのお百姓さんが何だ何だと言って私達のそばへかけつけた。私は歳上であるから一同に代わって爽やかに説明を試みた。
 何だそんなことか、俺は博突《ばくち》うちが手入れに遭ったのかと思った、つまらねえ、と愚痴たらたら己が畑へ鍬をかついで帰って行くのもある。蜂の子は、うまかんべと言って愛想を言ってくれるのもある。
 それはとにかくとして、何としてもきょうは大成
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