功である。斜酣の得意思うべしだ。丘の上の路で仕度をして、帰途についた。電車のなかでも斜酣の話は、縷々《るる》として尽きない。きょうは諸君を初めての案内であったから、終日野山をかけめぐって只一つの巣を見つけただけであるけれど、調子がいいと一日に三つや四つ採るのはむずかしくない。
 武蔵野方面も蜂の巣は少ないことはないのだが、地勢の関係上、大した期待は持てないのである。一番見込みの多いのが東京付近では、千葉県の小高い丘や野原がいいと思う、鴻之台は先年やってみて随分成績をあげた。しかしそれよりも、船橋から東京の京成電車の沿線にひろがっている林や芒原は、いまだ全く手がついていないから、いわば処女地だ。そこには必ず蜂の巣が、又か又かというほどあるだろう。
 さらに、かつて鬼熊が出た方面の叢林《そうりん》へ行けば、ただ路傍を歩いていても発見できるに違いない。埼玉県も浦和から大宮の間の林には相当いる。だが、それよりも信越線の桶川、吹上方面の方が有望だ。また、池上本門寺付近も市街に近いが見のがせない場所だ。
 何れにしても、その採蜂ハイキングというのは、一日を何も忘れて山、野、林、畑のなかを駆けまわり
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