切り離した。そして、その蛇の輪切りを二尺ばかりの細い篠の棒にさして、私ら銘々に持たせたのである。そこで斜酣が説明するに、一体地蜂の親を誘惑するには生きている動物の肉でなければいけないのだが、就中《なかんずく》赤蛙の活肉が歓迎される。だが、蛙はもう土の底へ潜ってしまったものか、きょうは見つからない。やむを得ず代用品として、山かがしをとっちめた訳だ。
 これからいよいよ、地蜂の巣を捜しに行く段取りとなるのだけれど、ここで一応諸君に承知していて貰いたいことがある。そもそも地蜂の巣を捜すにはまず親蜂の散歩しているところを発見しなければならない。親蜂は、巣にいる子供に餌を運ぶため朝から晩まで、終日野や林のなかを翔《か》けめぐっている。蜂は蟻のように団体行動をとらないで、どんなおいしい餌を発見しても単身で働いているものだ。地蜂の親は甚だ小型でからだ全体が青灰色を呈し、腹から尻にかけラグビーの襯衣《はだぎ》のような横縞がある。だから、縞蜂とも言っている。穴蜂ともいう。
 その地蜂を見つけたら、棒にさした蛇の肉を蜂の前へ差し出すと、蜂は直ぐ肉につかまって、あの鋭い歯で稗粒《ひえつぶ》ほどの大きさに肉を噛みとり、それを自分の巣へ運んで行く。そしてそれを子供達に与えると、直ぐまた蛇の肉のところへ帰ってくる。
 さて、それから僕の秘訣公開ということになるのだが、親蜂を見つけることが先決問題だから諸君大いに油断は禁物ですぞ。
 話が分かったら、繰り出すことにしよう。

     三

 指導者斜酣が目星をつけたところは、大泉から十町ばかり北へ離れた丘の上の楢林である。そこは、何とか女学院の新築敷地と大きな門に標札が立っていたが、コンクリートの塀で固めた敷地の中は近く新築に着手する風もなく楢林と枯芒で満ちている。しかも数千坪というほど広い。
 私らはひらりと高い塀を乗り越えた。斜酣の指図に従い、思い思いに親蜂を捜す段となったのである。楢の皮に樹膠が出ていて、そこでブーンという羽音を聞いたから忍びよって見ると、それは蜜蜂に似た虻であった。
 いたいた、という声を耳にしたので走っていって見ると論愚が、栗の木で一匹の蜂を蛇の肉にとまらせている。蜂はまさしく、ラグビー模様のシャツを着ている。斜酣は、これを正銘の地蜂なりと鑑定したのである。
 五人は、一心に蜂の行動を凝視した。地蜂の親は僅かの時間で、
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