く辛抱してくれと、返電があった。
その翌日だ。長い電報が、苫小牧からきた。第二陣は、白い草原に追い撃ちの策戦にでたところ、とうとう撃ち倒したのが、体重八十貫もある羆だ。北海道は、羆の産地というけれど近年は甚だ姿が少なくなった。だから、今回撃ち止めたのは珍しいことである。その肉を送ったから、賞味してくれというのだ。
それが、いま北海道から届いたばかりだ。石油箱にぎっしり詰まって一杯ある。君がいかに貪食であっても、これは食い尽くせまい。ところでだ、同好の士を語らい、これを料亭へ持ち込んで、多勢して試食してみようではないか、という豪勢な次第となった。
そういうわけであったか。何も知らぬこととて悪かった。僕は前言を取り消す。
二
いよいよ、羆の肉を小石川春日町のさる支那茶館へ持ち込んだ。
私は幼いときから熊とは縁が深い。私の父は茶人であって、私がまだ十歳位のころ、秩父山の方から、一頭の子熊を買ってきた。丸々と肥っているが、大きさは子犬ほどしかない。首輪をつけて、庭の木に繋いで置くと無邪気に戯れて、まことに可愛いのである。ところが二、三ヵ月たつと次第に育ってきて、親犬ほどになる
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