獰猛にして巨大、しかも狡猾にして人間の肉と、馬の肉を好むという羆は、一体どんな肉の味を持っているのだろう。早く、食べてみたいものだと友人に答えた。
こう約束して四、五日過ぎたが、なかなか羆料理ができるから駈けつけろ、という知らせがこない。そこで私は、鳴る咽を押さえながら友人のところへ押しかけて行き、君、羆をいつ捕ってくるのだい。先日の話は嬉しがらせの駄法螺《だぼら》だろう。常識で考えてみても分かるが、あの狂暴な羆がちょいとのことで、君らの手に入らないのは知れている。
嘘なら嘘と、ここで白状してはどうかと詰めよせると、からからと笑って友人が答えるに、あれは僕が山へ行って撃ち獲ってくるという話ではない。実は、報知新聞社が熊狩隊を組織して北海道へ押し渡り、アイヌの名射手三名に内地人の猛獣狩り専門家二名を加え、それに勢子二十人ほど集めて、苫小牧の奥、楢前山の中腹へ分け入り、今熊狩りの最中だ。四月上旬、吹雪のなかで一頭の黒熊を撃ち止めたという報せがあったから、その肉を送ってくれと電報したところ、それは我々射手と勢子とで、舌鼓をうってしまった。しかし、次に獲れた熊の肉は必ず送るから、しばら
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