香熊
佐藤垢石

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)羆《ひぐま》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)木|鼬《いたち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)三絲※[#「折/虫」、第4水準2−87−49]
−−

  一

 このほど、友人が私のところへやってきて、君は釣り人であるから、魚類はふんだんに食っているであろうが、まだ羆《ひぐま》の肉は食ったことはあるまい。もし食ったことがないなら、近くご馳走しようではないかというのだ。
 そうかそれは耳よりな話だ。馬の肉、牛の肉、豚の肉は世間の誰でも食っているから、これは日本人の常食だ。ところで僕は若いときからいかもの[#「いかもの」に傍点]が好きであって、永い年月の間に鹿、狸、狐、猿、鼠、猫、栗鼠《りす》、木|鼬《いたち》、羚羊《かもしか》、犬、鯨、海狸《ビーバー》、熊、穴熊、猪、土竜《もぐら》など、内地の獣類は、いろいろ食べたことがある。だが、不遇にも羆の肉だけは、いまもって食ったことがない。
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