京から、さまで遠くない山や渓にも、月の輪熊は豊富なのだ。
けれど、北海道の熊を食うのは、今回がはじめてである。熊料理の、膳の上に現わるる日が待ち遠しい。
五
さて、その日がきた。会場にあてた春日町の支那茶館へ行ってみたのである。
もう、同好の面々が二、三十人集まっている。そのなかに、金田一京助博士と舞踏の五条珠実嬢の顔が見えたのは、異色だ。当日の胆いりである私の友人の説明によると、金田一博士はアイヌと熊の研究にかけては日本一の権威であり、珠実嬢は花柳を五条に改名してから、近くはじめて新橋演舞場で公演するが、その出しものは金田一博士の指導により、アイヌの熊踊りである。だから、この二人は北海道の羆にとって、縁あさからざるものと考え、特に通知して出席を煩わしたと言うのだ。
一同食卓につくと、司会者はまず金田一博士にアイヌと熊について談話を乞うたのである。博士は、女性のようなやさしい謙遜の態度で語りだす。
アイヌの歴史は、熊の歴史であると言っていいほど、アイヌは太古から熊と共に生活してきた。アイヌの信仰は、この世の中の人間の国のほかに、神の国があるとしている。人間以外の動物は
前へ
次へ
全18ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング