すべて神が変装して神の国から人間の国へ遊びにきたものと信じているのだ。熊も、狐も、兎もそれぞれの神が、獣のマスクをかぶり変装して、人間の国へ現われ出で、われわれにその肉と皮を贈物としているのだと信じきっている。
 だから、神の贈物である獣を殺して食ったところで、神は満足にこそ思し召すが、決して怒るものではない。だから、アイヌは熊を神の化身と思っている。熊を祭ることが、神を祭ることだ。そして神を祭ったあとで熊の肉を煮て食う。これは、神へのお思し召しに添うものだ。
 熊祭りのときに、アイヌは神前に一瓶の酒を供える。神は人間を敬う心を褒賞して、やがて一瓶の酒を十倍に増して、返してくれるのだと信じている。アイヌが小熊を愛する姿は、美しいほどだ。だが、山へ熊狩りに出ては、戦慄《せんりつ》に値する勇敢さを示すのである。立ち向かってくる大熊に素手で抱きついて格闘する。ついに熊は自ら舌を噛み切って死ぬ。
 ところで、羆はどうかというと、これは油断もすきもならない。元来、羆は人間の肉が好きなのである。月の輪熊は、人間と睨み合ったとき、人間の方が瞳をそらすと、そのすきを狙って一目散に逃げだすが、羆の方はそ
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