香気の尊さ
佐藤垢石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)団欒《だんらん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)鮎|田楽《でんがく》
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釣り人が、獲物を家庭へ持ち帰って賑やかな団欒《だんらん》に接した時くらいうれしいことはないであろう。殊に、清澄な早瀬で釣った鮎には一層の愛着を感じる。メスのように小さい若鮎でも粗末にはできないのである。そこで釣った鮎の取り扱いとか始末とかについて書いてみたいと思う。
鮎は釣ったならば、水に浸けた魚籠《びく》に入れて生かしておき帰るときに上げるか、大きなものはそのまま殺して風通しのいい籠にいれておくがよろしいのである。ところが釣ると直ぐ腸《はらわた》を取り出して、籠に入れる人があるが、それは鮎の本質を棄ててしまうのと同じである。鮎が人に好まれるのは清淡の味もさることながら元来特有な高い香気にあるのであるから、香気と渋味を尊ぶ腸を棄てては鮎を理解しないも甚だしい。また頭と骨にも特別な香気がある。これは落ち鮎頃のかたくなったのでは口にできないが、七、八月のまだ柔らかい頃には、頭も骨も共に食うと本来の味と香
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