気が舌に応えるのである。
籠に入れた鮎が腐る恐れがあるとすれば、鮎を出して二枚に割《さ》き薄く塩して、河原の石にはり付け日光に晒《さら》して干物とすれば珍味として賞玩するに足りる。これはまことに贅沢な食べ物で、人に贈っても甚だ喜ばれるであろう。それから腸も棄てぬ方がいい。
弁当箱か空壜へ入れて塩をかきまぜて持ち帰れば一週間にはウルカとなる。
塩焼きの焼き方は、誰でも知っているから略するが、鮎|田楽《でんがく》にするには本焼きにして枯らしたものにほんとうの味がある。串に刺して火鉢の灰に立て、上から新聞紙をかぶせて火気の逃げないようにしておくと、一時間半か二時間の後には肉の中の水分が蒸発して本焼きとなる。それを風通しのいい所へ一両日籠に入れて吊るしておくと焼き枯らしとなるから、これを食べる時に取り出し再びあぶり直した上へ味付け味噌を塗り、更に一度火にあぶりコンガリと味噌がこげたならば、食膳にのせるのである。こうした田楽ならば香気が高くてまことに美味《おい》しい。
煮びたしにするには、焼き枯らしたものを鍋の水に入れ、ひたひたになるまで煮つめ味をつけるのだが、これを釜の中の炊いたばかり
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