桑の虫と小伜
佐藤垢石
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)欅《けやき》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)茨城県|西金《さいがね》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)はや[#「はや」に傍点]
−−
私の故郷の家の、うしろの方に森に囲まれた古沼がある。西側は、欅《けやき》や椋《むく》、榎《えのき》などの大樹が生い茂り、北側は、濃い竹林が掩《おお》いかぶさっている。東側は厚い桑園に続いていて、南側だけが、わずかに野道に接しているが、一人で釣っているには、薄気味が悪過ぎる。
そこには、鮒と鯰が数多く棲んでいる。十一、二歳になる私の伜は、学校から帰ってくると、おやつを噛み噛み、釣り竿を担いでその沼へ出かけて行った。ある秋の日、この小伜がその古沼から大きな鮒を、一貫目近いほど釣ってきた。伜は、息をはずませながら、手柄を誇るのであった。
『それは偉《えら》い――ところで、餌はいつもの通り、みみずを使ったのか』
と、問うてみた。
『みみずじゃない、桑の虫だよ』
『なんだ、桑の虫だ? そんなものが餌になるのか』
『父さ
次へ
全5ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング