ません。血の臭いや、火薬の臭い、焚火の臭いなど穴の入口に残っているからでしょう。穴の近所の樹の肌に、熊は歯や爪で印をつけます。これは、縄張りを示すためであろうと考えられています。立派な穴があって、それを大きな熊が発見しても、先住者がいるそこへ侵入しないものです。先住者が小さな熊であっても先住者の権利は尊重する習性を持っているように見えます。
 熊にも、居付きの熊と渡りの熊とがあります。渡り熊というのは遠方から旅してきたものです。旅からきた熊には、小さいものはいません。
 私がいままで撃ち取った四十四頭の熊の約半数は雌熊でありました。そのうち数頭は、仔連れの雌熊であります。しかし、どの雌熊の腹を割いてみましても孕んでいるのを見ませんでした。そんなわけで、熊がいつ交尾し、いつ穴のなかで仔を産むかを知りません。仔連れの熊は二、三貫目より小さいものは伴っていません。それより小さいのは足が幼いため親と歩行を共にすることができないから害敵に出会った場合に危険に陥る場合を考えているためでしょう。
 十二、三貫にも育った仔熊を伴っている場合もあります、十二、三貫目に育つには三年かかりますから、熊は毎年
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