を見はからって、撃った。なにしろ、三、四尺の距離しかないのですから、外れっこありません。頭の真ん中へ、弾は命中しました。四十貫の巨体は地響きたてて倒れました。
熊を正確に撃つには、熊の頭へ銃口が触れるまで、近く引き寄せるだけの度胸を養うことです。熊の頭に銃口が触れていれば、弾が外れるわけはありません。
三
これは、私の命拾いでありました。実は前日、修繕にやって置いた銃が鉄砲屋から届いたのを、そのまま試しをやらないで舁《かつ》いで猟に出たために不発であったのです。修繕したら必ず試してみなければなりません。
私は、上信越国境の山々で五、六十の熊の穴を知っています。熊の穴は、もっと他にも数多くあるのでしょうが、人間に発見されるのはそのうちの少部分であると思います。穴の数を多く知っていることが、つまり熊を数多く撃てるという結果になるのですから、随分危険な崖や叢林を跋渉しなければなりません。この地方では私が一番熊の穴の数を知っているのです。
穴といいましても、どの穴にも必ず熊が入っているというわけではありません。その穴で一度熊が撃たれると他の熊は七、八年から十年間くらいは寄りつき
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