れにぞつこん凝つてしまつた。日参り、夜参りである。師匠の瀬越や、中国から吾が子の保育に行を共にしてきた母堂舒文もこれには呆れて、拝み屋などに凝つたところで、なんのためにもならないから、やめてくれといくら頼んでも彼はいつかな耳を藉さない。
 両国の拝み屋には、一人の美しい姪があつた。拝み屋は、この姪と呉清源とを結婚させようと考へた。そのころ、呉は二十七、八歳、姪は二十一、二歳であつた。拝み屋は、呉清源を口説いた。彼は拝み屋から口説かれるといやとはいへない。結婚を承諾した。
 これには、母舒文も瀬越も、生駒※[#「皐+羽」、第3水準1−90−35]翔も真剣になつて反対した。彼はこの反対にも従はない。つひに、結婚式をあげてしまつたのである。
 母舒文にとつて呉清源は可愛い末の男の子である。子供が年頃になつたならば、故郷の中国から嫁を迎へ、中国の習慣のなかに家庭生活を営んで、余生を送らうと考へてゐたのに、子供が日本人と結婚したのでは日本に住む楽しみを失つたといつて、そのころ南京に住んでゐた長男の、呉浣の許へ帰つて行つた。
 さて、話はそれからである。呉が凝つてゐる両国の拝み屋は、いろ/\策略は
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