+羽」、第3水準1−90−35]翔は船酔ひを起して顔色蒼白となり、いかにも苦しさうであつた。その姿を見た呉清源は、なんと思つたか、ひよいと立つて※[#「皐+羽」、第3水準1−90−35]翔のうしろへ廻り、黙つてその肩へ飛びつき、指先しなやかに揉みはじめたのである。
 舟中の一同は、興味あることであると思つて、ほゝゑんだ。
 その夜のことである。夕方、舟から上つて一同木更津の大きな旅館へ泊ることにした。晩酌とめしが終つて、いづれも陶然としてゐると、そこへ宿の老女中が入つてきて、女はいらぬかといふ。早く予約して頂かないと、今夜は他よりも泊り客が多いから品ぎれになるから、いかがですと交渉をはじめた。木更津といふところは、どこの旅館でも宿の女中が夜伽を稼ぐ慣はしがある。そこで橋本、篠原、小野田などの若い健啖の連中、忽ち予約を申し込んだ。
 次に老女中は最も年少で美男子である呉清源のところへ行つて「あなたは、いかがです」と勧誘した。諸先輩が三人も揃つて予約したのに、自分もその例に習はねばならぬかと考へて、ひどく当惑した。
「先生、どうしたらいゝでせう」
 師匠である瀬越八段の前へ畏つて坐り、かう
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