ぢや、ぢやがの、連れてきて果してものになるかな」
芳沢大使は、木堂の女婿である。
「ものになるどころぢやありません。このまゝすく/\と伸びて行けば、どこまで行くものか見当がつきません。世の中に所謂天才少年といふのはいくらもありますが、こんなのはちよつと類がないといへませう」
「ふん、なるほど、するとぢやな、その少年が貴公らの予想通りに伸びて行くとすれば、将来は名人になれるかも知れんちふのぢやな」
「ほんたうに、なれるかも知れません」
「よし、それはよく分つた。しかし、そこでぢやな、もしその少年がめき/\と育ちよつたら、結局将来は貴公等がやられる時代がくるのぢやないか。日本の棋界が中国の少年に抑へられたとあつてはどんなものかな。貴公等はどう思ふ」
「いゝえ、芸道に国境はございません。世界のどの国の人が名人上手になつたところで、私らは大いに歓迎したいと思つてゐます。」
「えゝ覚悟ぢや。技芸に携る人は常にその精神を持つちよらにやいかん。それでこそ、芸の道は発達するのぢや」
かういつて、木堂は莞爾とした。
「はい」
「たやすいことぢや、一骨折る。ぢやがな、外国から人を呼んでそれを面倒みるち
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