で――」
「ふん、さうか。わしは、七段二人腕を揃へて都合十四段のおいでからに、強豪犬養をとつちめに来よつたかと思つた。あつは……」
 木堂は、政界に於ける有名な棋家であつたのは誰も知つてゐる。
「はゝゝゝ。ところで、その御骨折願ひたいといふのは、このたび支那で棋道の天才少年を見つけましたのです」
 かう、いつたのは瀬越七段である。
「ふん」
「それは呉清源といつて、いま北京に住んでゐる今年十四歳の少年ですが、棋聖秀策の少年時代に似たやうな天稟の棋力を持つてゐます。このほどこの少年が打つた棋譜を三局ばかり調べてみましたがその天分の豊かなのに、吾々専門棋士仲間でも驚いてゐるやうな次第でございます」
「なるほど、それは耳寄りぢやな」
「そこで、その少年を日本へ呼び寄せてみつちり仕込んで物にしてみたいと思ふのです。ですが当方に有力な背景がないといふと向ふの親達が安心して、遠い日本へ旅はさせまいと思ふのですが――」
「それも、さうぢやの」
「ところで、先生に一筆、北京の芳沢大使の許へお願ひ申して、芳沢大使から少年の親御に修業を勧誘して頂いたら、どんなものかと存じますが――」
「それはたやすいこと
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