った。後輩だから、子供扱いするわけではないが、このごろ大分《だいぶ》大人びてきた。木暮は、私という人間を知らないから、先輩だなどと思ってはいまいけれども、私は木暮を知っているから、先輩は先輩だけに、木暮の身の上を心配しているのである。
 なかなか演説がうまくなった。抑揚《よくよう》といい論理といい演説の見本みたいなことをいう。だが、なんとしても木暮から客引風が抜けない。もっとも、木暮は伊香保温泉の宿屋の亭主であるから、自分の帳場の番頭の風がひとりでにしみ込んで、いつとはなしに、こすっからくなってしまったのだろうが、なんとしても木暮には野人の味が乏しい。
 先代木暮武太夫は、自由党時代の代議士で、からだのどこかに国士の風があった。しかし、伜の武太夫にはその風は譲られてない。清濁合わせのむなどという概は、よそ国のことと考えているらしいのだ。政友会型じゃない、民政党型だ。生まれ性ならいたし方がないと考える。
 だけれども、前橋中学からも一人の大臣を出したいと熱望する。そう思って前中出身者の顔触れを眼に描いてみると、やはり木暮武太夫の顔ひとりが大きく映ってくる。木暮は、将来必ず大臣になれると思
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