河豚の鰭を焼いて酒中に投ずれば、悪酒変じて良酒になると言われているくらいであるから、よほど魔力を持っているに違いない。鰭酒の一杯は、人間の血管燗熟して妖気を発し、全身を乳湯のうちに浸けたように温気が湧いて、わが肉皮がゆるむと称されているほどだ。
 兵庫県の加古郡高砂町の漁師は、なかなか河豚料理が上手だという話だが三浦半島の鴨居でも房総半島の竹岡でも、鯛釣りに行って鈎に河豚が掛かると漁師はすぐ料理して食わせる。まず、頭を向こうに向けて腹を上にし、右手に握り、糞落から庖丁を入れて下唇にかけて割き開き、腮、内臓を取り出しておいて皮を引き、肉を落とすという順序になる。そして柳刄で刺をそぎ落とし腮は出刃で血を抜きとる。腸は抜いて血を去り裏返してまた血をとる。脊骨のなかの血は針金を通して掃除し、肝臓は薄皮を剥ぎ賽の目にするのだが、血管の血を去るには塩を厚くまぶすのである。塩は血を吸いとる性質を持っている。そして洗ってさらに水に幾度か晒すのだ。トウトウミは、一種のゼラチン分だから剥ぎとって塩で血を抜き、白子つまり睾丸と笹身とは毒が少ないから、水洗いしたばかりでそのまま食える。河豚の肉は、かまぼこに入
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