が肝臓だろう。甘味、豊饌《ほうせん》とは真にこのことである。食っているうちに五体の骨がゆるむかに覚え、神気陶然としてくる。茶色をしていて柔らかい。
それから、雄河豚の睾丸が素敵に珍味だ。白子と言ってちり鍋によく、味噌汁にいい。河豚ぎらいの尾崎行雄老が先年別府で、この白子を豆腐であると言って食わされ、その珍味に感嘆して次の旅行先下関で、あの丸い輪切りの豆腐を出せと言って請求したところ、それは河豚の睾丸であろうという説明を聞き、胆を冷やしたことがある。
嘴の肉を、鴬と言う。これは場所柄だけに肉の量は少ないが甚だおいしい。腹壁の肉をトウトウミと言うが、これはみかわの隣という洒落《しゃれ》らしい。腮もうまい。白く半透明で、清快な感じを持つ。腸は茶色で親指大の太さがあり、葱の株を詰めて輪切りにして食うと頗る乙だ。皮は青灰色で、腹部の方が黒いのである。骨つきは、中おちに沢山肉をつけたのを言うのであるが、随分からだが温まる。笹身は刺身にして食う。だが、ほんとうに[#「ほんとうに」は底本では「ほうとうに」]河豚を好む人からいうと五体のいずれのところよりも味は劣ると思う。鰭は、鰭酒をつくる。昔から、
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