猛毒が一番に多量に入っているのは、河豚の胸鰭の下の皮膚についている寄生虫である。これを蝶々と言っている。河豚の皮膚と同じ灰色であって、大きさは犬のダニくらいある。一匹の蝶々を、鶏に与えるとその場で死んでしまうくらい猛毒の持主だ。だから河豚料理のうち、皮はよほど注意しないと間違いが起こりやすい。
次に、雌河豚の卵巣もいけない。卵巣を普通マコと言っている。薄墨色で肝臓と間違いやすくもしこれを食えば即死だ。けれど、これは婦人病には特効があるというので、日陰干しにして売っているところがあるが、味はからすみに似てそれ以上であるというから酒の肴には絶好の品であろうけれど、恐ろし恐ろし。よく干したものを削って耳掻きに一杯飲むと、身体自ら熱温を生じ性気昂進して、琴瑟《きんしつ》相和するところの奇薬であるという。
抱肝も恐ろしいものの一つだ。抱肝は河豚の肺臓であって、肩胛骨の下側についている。これは必ず捨てねばならないのである。それから青い色の胆嚢、赤黒い色の胃袋も警戒ものだ。血液は、毒の源泉だからこれが一滴ついていても洗い落とす必要がある。
七
河豚の肉皮、五臓のうち最もおいしいの
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