るそうである。そのうち名古屋河豚(小斎河豚)、目赤、虎河豚、黄金河豚、銀河豚、北枕、篭目河豚などが普通知られている。
私らが、料理屋で食うのは虎河豚、名古屋河豚、世間では金河豚といっている黄金河豚であるが目赤と北枕、篭目は猛毒の持主で、食えば大概極楽行きである。名古屋河豚の名のいわれは、みのおわり[#「おわり」に傍点]だから名古屋とこじつけたのであろうと言う人もあるが、それは当てにはならない。名古屋河豚に中毒した人は、昔から稀であるからだ。北枕は名の示す通り、一度食ったならば北枕に寝かされるのを覚悟しなければならない、という危ない代物だ。
一番人に歓迎されるのが虎河豚で、漁も沢山ある。味が上等で、門司ではこれを紋河豚と呼び皮膚にざらざらの刺があって二貫目以上に育つ。味の点では、黄金河豚が圧倒的だ。しかし、魚体が小さく百匁位より大きくならないのと、漁れる時季が甚だ短いので惜しまれている。虎河豚のように皮膚に刺はなく肌に黄金色の艶が出ているのである。銀河豚、これもなかなかおいしい。黄金河豚と同じに、皮膚に刺がない。
名古屋河豚は、関東では主に小斎河豚《しょうさいふぐ》と呼んでいるが河豚料理に理解を持たなかった江戸時代から、東京では場末の縄暖簾《なわのれん》でもこの小斎河豚を売っていた。それほど、小斎河豚の味は普及している。だが、味は結構でない。河豚のうちで、一番風味に乏しいと言ってよかろう。やはり、皮膚に刺がなく大きいのになると二貫目以上に育つ。
市中の小料理屋で鉄砲鍋とか小斎鍋とか言って売っているのがそれで、毒が少ないからこれならば命に別状はない。昔、江戸っ児が河豚はうまくねえ、と貶してきたのは、安全なものとしてこの味の劣る小斎を選んできたためだと思う。
河豚は、海釣りの外道として釣り人から仇のように憎まれている。そのはずであろう。上腮と下腮に生えている一枚歯は、やっとこ[#「やっとこ」に傍点]のように力強く、剃刀《かみそり》のように鋭い。この歯に噛まれたらどんな太い天狗素《テングス》でも、一噛みでぽきんだ。
鯛釣り漁師は、丹精して繋いだ百|尋《ひろ》もの本天狗素の釣り糸を、時々河豚にやられるので、河豚にかかっちゃ泣いても泣ききれないとこぼす。だから釣り人は河豚が釣れると憎しみのあまり、骨も砕けよと渾身の力で舷か、岩角へ叩きつけるのだが、河豚は腹をふくらま
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