ってくるのでありましょう」
「おばあさん、僕にも分かっています」
賢彌は、悄然と微笑した。
「ところでね賢彌、一人生まれて一人失うという歴史では、石坂家は未来永劫家族は増えませんね。ですからね、今度お前が嫁さんを貰うとき、一度に三人お嫁さんを迎えてくれないか。そして、一度に三人子供を生んでくれないものかね、ははは」
祖母は、悲しい話を笑いに紛らした。母のきみ女も傍らにこれをきいて眼をしばたたいた。
「おばあさん、僕一度に三人なんか嫁さんを貰うのはいやですね」
賢彌は、馬鹿々々しいといった顔で笑ったのである。
家族三人で囲んだ爐の榾火に、どこからともなく忍んできた隙間風が、ちょろちょろと吹いて過ぎた。
六
奥利根地方の温泉郷へ旅するとき、上野駅をたって高崎、新前橋、渋川駅と過ぎ、大利根川の鷺石鉄橋を渡ってから沼田駅を発車し、高橋お伝の生家のある後閑駅へくる少し手前で、汽車の窓から西方を眺めると、月夜野橋の下流数町の河原に、利根川へ合する大きな峡流を観るであろう。これが、赤谷川渓谷である。
赤谷川は、標高僅かに六千五百尺内外であるけれど、登山者の生命を奪うことで知られて
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