いた。
「おばあさん、野守というのはなんですか」
こう、賢彌は祖母に問うたのである。祖母は、野守の伝えごとについて知っていた。
「野守というのか、それは大蛇です。雌の大蛇が千年の寿を亨《う》けると、胴体に四つの肢を生じて妖精となると聞きました。その妖精は、美男を求めて、その生血を吸うと伝えられているから、あるいはお前のひいお爺さんは、その野守に生きながら魅入られてしまったのではないでしょうか」
と、説きまた自らも判断したのである。しかし、みよ女の想像は当たっていた。明治十一年から十二年の秋、裕八郎が四万温泉へ遊んだとき、彼は一日小倉の滝あたりへ散歩したことがある。その折り裕八郎は、滝に近い山径で一人の若い美女に逢ったが、ふとした言葉の交換から、ついに将来を契ったのであった。
そのために裕八郎は、小倉の滝からさらに十里も奥の横手山に棲む野守の精に、若い生命を捧げる運命を持つことになったのである。
「賢彌、もうそんな寂しい話はやめましょうよ。ですがね、もうお前も子供ではないのですから、石坂家に伝わる男の悲しい運命を知っていると思います。ですから、やがてお前の身の上にも、その運命がめぐ
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