いる上、上越国境の谷川岳と、その西に隣し万太郎山との間に割り込んだ深渓から源を発している水量豊富な、そして恐ろしく高い胸壁の底を縫って出る人跡を寄せつけぬ渓流である。谷川岳と万太郎山との南面の山襞には、四季雪の消え去ることがない。雪解水が、春から秋まで朽葉を濡らし、古苔を浸して渓に滴るので、赤谷川の水はいつでも手を切られるように冷たい。
それが、急傾斜の山骨の割れ目を流れ走って五里下流の笹の湯温泉のしも手までくると、西方の峡谷から一本の渓流が合する。これを、西川という。
上州と、越後を結ぶ三国峠から一里下った谷間に法師温泉があるが、西川はこの法師温泉の奥に水源を持っているのである。赤谷川は、西川渓流を合わせると、さらに水量を増して西南五里の利根本流へ向かって奔下して行く。
その途中に、幾つも深い淵があるけれど西川との合流点から十町ばかり下流、水の力が何百万、何千万年かの長い時間に、南岸の山裾を截り削った樋のように巌峡を過ぎ、少しかみ手に深い大きな瀞がある。蒼碧、藍を溶いたのかと思うほどの色が淵に漂い、岩のかげには緩やかな渦が巻き、象牙色の積泡が浮いて流れ、淵尻に移ろうとするところ
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