鰍の卵について
佐藤垢石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)山女魚《やまめ》釣り

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|塊《かたまり》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「魚+才」、48−10]《さい》
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 私の、山女魚《やまめ》釣りを習った場所は奥利根であった。この地元では春先、山女魚を釣るのに餌は鰍の卵と、山ぶどうの虫を餌に用いたのである。
 しかし、この二つの餌のうち、鰍の卵の方が断然と成績がよろしい。それは、早春の山女魚は鰍の卵を常食としているためであろうと思う。けれど、この卵を人間が食べると甚だおいしくないのだ。鰍の肉は、天ぷらにしても、焼き枯らした味噌田楽《みそでんがく》にこしらえても、あれほどおいしいのに、また鮎もはやも、肉も卵も共に立派な味を持っているのに、同じ川魚でありながら、鰍だけが卵においしい味を持たぬのは妙であると思ったことがある。そう言えば、鯰《なまず》の卵もおいしくない。ギュウギュウの卵もおい
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