しくない。してみると、鰍と同じ形をした魚は、すべて肉はおいしいが卵はおいしくないのかも知れない。
肉も、卵も共においしくないのは、※[#「魚+才」、48−10]《さい》という魚である。
だいぶ余談に入ったが、鰍は随分、夫婦仲のよろしい魚である。産卵期は地方によって違う。しかし、一月下旬から四、五月頃までである。奥利根川地方では二、三月頃が、産卵の盛期である。抱卵した鰍は、流れの強い底石の、それが矢倉《やぐら》に組んである石の天井を捜して、卵を産みつけるのである。産卵が終わると、鰍の夫婦は矢倉石の上流と下流の二つの入口に頑張って、外敵の侵入を防ぐのだ。
矢倉に組み立った石というのは、そうやたらに川底にあるものではない。それを鰍たちが捜すのであるから、一つ矢倉石に幾組もの鰍が産卵しなければならぬのだ。そこで、後からその矢倉石を発見した体力のある鰍の夫婦は、先口の鰍夫婦を追い払って、前に産卵した矢倉石の天井へ産みつける。こんなことが幾度も繰り返されるので、人間が一つの矢倉石を発見すると、一つ石から数層の鰍の卵を得られるのである。数層の卵といえば、ゆうに一合以上はある。
鰍よりも、山女
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