うぜん》として興奮した。ウワーというどよめきが白髪神社を埋める杉の大樹の森を揺すった。
果たせる哉、杢平牛は神火を纏《まと》う龍の如き、凄まじき姿で、三十間ばかりの間隔を猛然として宙を飛ぶように突っ走った。この牛の角は、特に鋭い。その角を、孫七の頭上目がけて、骨をも通せと突っ込んだ。
かっ※[#感嘆符二つ、1−8−75] 孫七牛は頭を中段に構えて、この鋭い杢平の鋭鉾をがっちりと受け止めた。二秒、三秒。角と角が絡んで、そこから熱気が沸騰するかと思う。押した。孫七牛が、杢平牛の巨体を押した。西の土手に向かって押した。見物人は興奮、陶酔、戦慄――なにがなんだか分からない。
杢平牛の巨体が、ずるずるずると、十四、五間うしろへ押された。まだ鼻糜を抜いてから十秒とたっていない。押してくる孫七牛の角を、杢平牛は、するりとはずした。角力《すもう》のいわゆる肩すかしだ。
相手の角をはずして置いて、杢平牛は相手と頭を揃えて、平行した。つまり、肩と肩をならべて同一方向に立ったのだ。その瞬間、杢平牛はその鋭い左の角で、孫七牛のぼんのくぼへ、ひと突きくれた。
鮮血が、奔《はし》った。
双牛の後脚に、
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