て猫万どんはひどく喜んださ。
 その夜、猫万どんと俺は厩の棟下に隠れて源景寺河童のやつてくるのを待つてゐた。息を殺して、様子を窺つてゐた。すると、果せる哉丑満刻になると庭の隅の垣根を潜つてやつてくるものがある。河童が五六匹。
 河童の肌は、夜光薬でも塗つたやうに闇中に光るから、彼等の姿ははつきり分る。がやがやと何か打ち合せをやつてゐる。
 やがて、一番大きな奴が先頭に立つて、厩舎の方へ近づいてきた。小馬が怖れて、ヒーンとないた。
 そこで俺は厩の棟下から出て、その河童の大将に、
「諸君、今夜なんの用があつて、やつてきたのぢやい」
 と、問うてみた。
「そこにゐるのは、末風村の幸七ぢやねえか。――今夜は、猫万どんの小馬を貰ひにきた。じやま立てすると、ただぢやすまねえぞ」
 かう、大きな河童が偉丈高になつた。これに対して当方が憤慨すると、策戦は失敗に終るから下腹を静かに落ちつかせて、
「それは御苦労、小馬の一頭、猫万どんはなんとも思つてはゐないから、いつまでも持つて行くがよい。ところで、まだ時刻も早いから急がないでもいいぢやないか。酒が買つてあるから一杯やつてから馬を引いて行くことにしちや
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