りませんから、東京へ言ってやって取り寄せておきます。こんなお願いをしてすみませんね』
『さ、私に縁談ばなしというのが、やれるかどうか――とにかく、この次くるまでに取り寄せておいてくだされば、心当たりがあった時にお役に立ちましょうから』
と、言ったけれど、別段私にこれという心当たりがあった訳ではないのである。もう、私は眠くなった。話はこの辺で打ちきって寝ることにした。そして、私は床へ入ってから考えた。森山さんの底なしの近眼、にきびの抓《つま》み跡というのでもなければ、毛穴が膨らんでいるという訳でもない。ただ顔にぶつぶつと小さい窪みが無数にあって色が黒い。その上に、上背が五尺あるかなしかの、幅広の体格から想像すると、もし兄さんに似ている妹さんであったなら、女として美しい出来ではないかも知れないと思った。しかし、世の言葉に、
――容貌は、吊り合わぬ方が仲がいい――
という話があるから、女としては最高学府を出ていることだし、ことによったら骨折り甲斐があるかも知れない。こんな風にも思ったのである。
三
鯛が鈎《はり》に掛かって、死にもの狂いに海底で糸を引きまわす力の味は忘れ
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