『東京です。女子大の家政科を出まして、青山のある女学校に教鞭をとっていたのですが、芝のあの山泉男爵さんのお嬢さんが教え子だったので、そのお嬢さんが卒業すると、男爵家の懇望でそこの家庭教師になったのです。お嬢さんがお嫁に行ったあとでも、その妹さんや弟さんの面倒を見てくれというような訳で、とうとう今年で八年も居付いているような有様です』
『結構ですな』
『少しも結構じゃありません。なまじ、女子大など出て華族様のところで家庭教師などやっているものですから気位ばかり高くて――その上に別嬪という方じゃありませんから、これまで二、三話があったのですけれど、いつも鶴亀や、になりませんでした』
『そんな立派な学歴や、職業を持っていなさるのですから、どこにでもご縁がありそうですがな――写真でもありましたら預かって置けば、思い当たったところへ話をはじめてみることもできようと思いますが』
 私は、森山さんの家へ二、三年続けて遊びにくるが、妹さんを一度も見なかったのは、いまの話のような次第で、東京にばかりいて田舎はきらいだ、というのであったからである。
『ちょうど、いま生憎《あいにく》こちらへきている写真があ
前へ 次へ
全17ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング