では二十三、四歳を過ぎてもお嫁に行けないと、何とかかんとか噂を立てられるのでしてね。それに、母もあの年波の上にからだが弱いものですから、妹の身が片づかないのを明けても暮れても心配しているのです。それを見たり、聞いたりするのが私は何より辛い』
『どこか、ちょうどいいところがありそうなものですね』
『時にはあるのですが、いつも話がうまく纏《まと》まりません――オールドミスを妹に持つと、妹の悩みよりも母の心労を見る方が、よほど気が揉《も》めますよ』
二
私は、これまで人から縁談のことについて一度も相談を受けたことがなかった。だが、人間が相当の年輩になれば仲人の二つや三つをして見るのが、娑婆《しゃば》の役目であるという諺のあるのを知っている。森山さんから、この話を聞いて改めて娑婆の役目を思い出した訳だが、その娑婆の役目にこれを機会に取り掛かろうとして思いついたのではなく、森山さんの妹の身の上を気遣う口振りや表情が、いかにも困ったという風であったので、一つ私も縁談の口ききをやってみようかなという、柄にもない親切な気持ちになったのである。
『お妹さんは、いまどちらにいるのですか』
前へ
次へ
全17ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング