っけ》にとられた。ところへ、山岡が小走りに走ってきて、これも甚だ語気鋭く私の顔を仰ぎ見て、
『君、人をからかうのはやめ給え』
六
翌朝、山岡から速達のはがきがきた。
――今後、君と絶交する――
と書いてあるだけであった。私は、私の粗忽《そこつ》を悔いた。ああ止んぬるかなと思った。それから一週間ばかり過ぎると、森山さんから手紙がきた。それには、
――差し上げておいた写真と、戸籍謄本とを至急返送して貰いたい。次に、申すまでのこともないが、今後房州へ釣りにきても私のところへは立ち寄ってくれるな――
と書いてある。
つまらない出来心から、二人の知り合いを失ってしまった。下手な親切気など、起こすものではないと私は思った。
ところが、それから十日ばかり過ぎると、絶交状を突きつけてよこした山岡が、突然私の家へ飛び込んできて、
『君、困ったことになったのだよ。この二、三日、毎晩夜半になるとあの女が僕の枕元へ、影のようになって立っているんだ。便所へ行けば、廊下に立っているんだ。腕を伸ばして撲《なぐ》りつけようとすると、もういない。恐ろしくて眠れないんだ――君、何とかしてくれ』
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