ころは、まるで袋にでも入ったようだ。髪の毛はあかい、手は黒い。何と、お粗末の婦人だろう。一町もさきの遠方から森山さんを認めたとき、その傍らにいるのが、妹さんであろうと直感したのは、当然だ。
『あれだ』
と、私は小さく囁いて山岡の顔を見ると、山岡は俄《にわか》にぷんとして形容のし難い苦い表情をしたのである。山岡も、逸《いち》早く彼の女の姿を認めて――あれだな――と、判断していたらしい。
私は、山岡を捨てておいて、森山さんの傍らへ歩いて行って、挨拶も抜きにして、
『あの紳士です』
と、囁いた。森山さんは、口の中で何か言ったが私には聞きとれなかった。そして兄妹顔合わせて、これも名状し難い表情をするのである。私は刹那《せつな》に――これは、いかん――と、思った。けれど、私は何食わぬ顔を、漸く装い作って、
『ご飯たべるところ、どこにいたしましょうか』
こう、問いかけた。すると、森山さんはひどく不満らしい低く刺のある声で、
『きょうは、これでご免蒙ります――大へんご苦労さまでした』
と、言ったなり兄妹二人は、後をも見ないで急ぎ足で、駅のなかの人混みの中へ入って行ってしまった。私は呆気《あ
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