揃って、どこかへ昼餐を食べに行こうという手筈になったのである。
 約束の日は、土用に入る前のかんかんと照る焼きつくような暑い日であった。山岡は、例のモーニングを着用し、髭も剃りネクタイも新しいのを結んで出てきた。二人は、円タクに乗って両国駅の前の曲がり角まで行って降りた。
 私は、遠くから駅の入口の人混みのなかを物色した。いる、いる、兄妹二人で、駅前の庭の方を人待ち顔に眺めている。
『いるか』
 と、山岡は及び腰できくのだ。
『いる。あすこに二人で待っているが、ここではまだ君には分からない』
 山岡と私の二人は、緩やかに駅の入口の方へ歩いて行った。十五、六間前まで近寄ると、兄妹二人の眼は動揺した風である。顔や容《いろ》が色めき立った。まず、森山さんが私を発見し、私と並んで歩いてくる山岡を、それと睨んで妹の袖を引き、電光の如き敏捷さで眼配せしたに違いない。
 私は妹さんの顔を見た。森山さんと、瓜二つである。丸い顔に、剥げるかと思うほど厚くつけた白粉が、額から流れ落ちる汗に二筋、三筋溶けて、蚯蚓《みみず》のように赤黒い肌が現われている。低いからだを袂《たもと》の長い淡紫紅の夏羽織に包んだと
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