と、蒼《あお》くなって言う。
『それは君、夢か現《うつつ》だよ。君、しっかりしろよ――』
『いや君、ほんとの幽霊だ』
『そんな馬鹿なことが――』
私は魅《み》こまれたような思いがした。
そんなことがあってから数日後、旧盆に仲造のところに僅かなものを贈っておいた礼手紙が届いた。その末尾に、
――一週間ばかり前、森山さんの妹が磯の高い崖の上から海へ飛び込んで自殺しました――
と、書いてあった。これを読んで、
――山岡に、なんの怨みもあるまいに――
と、思ったが、全身の血が頭へのぼったかのように、背中がぞくぞくと寒くなった。
[#地付き](一四・六・二)
底本:「完本 たぬき汁」つり人ノベルズ、つり人社
1993(平成5)年2月10日第1刷発行
底本の親本:「随筆たぬき汁」白鴎社
1953(昭和28)年10月発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2007年4月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さ
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