そこで、娘は青年達が宿っている掘立小屋へ、夜の訪問とでかけたわけだ。思い設けぬ美人の訪問に、青年達は大いに喜んで厚くもてなした。そこで、私の父も家から持って行った餅を五切れ六切れ、榾火に焼いて、娘に馳走したところ、娘はおいしそうに、そして恥ずかしそうに、むしゃむしゃと盛んに食べた。
 ところで、頬ふくらして盛んに食べたのは、肩車に乗った上の狐である。肩車の下の狐は、これを見て、朋輩のやつ、ひどく旨いことをやっていやがるな。だが待てよ。ここらで、小生が食い意地をはり、ちょっかいを出せば、あらぬところで化の皮を剥がれる虞《おそ》れがあろう。
 待てば海路の日和《ひより》、そのうちには小生の方へも、お鉢が回ってくるに違いないと、下の狐はしばしがほど、辛抱に辛抱を重ねて、上の狐が青年共の隙を狙って、一切れの餅を股座《またぐら》へ抛り込むのを待っていた。
 が、しかし上の狐は甚だ友情に乏しい。手前ひとりで、食ってばかりいる。下の狐は、憤慨してむかっ腹を立てた途端にわれを忘れ、先刻の自制心を失い、裳《も》の間から素早く手を出して上の狐の持っている餅を奪って、股座の奥の横に割れた己の口へ、ねぢ込
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